属人化した「営業の暗黙知」をAIで形式知化。 東芝エレベータが加速させる全社AX推進

東芝エレベータ株式会社へのインタビュー概要

東芝エレベータ株式会社

営業統括部 竹内様

情報戦略システム部 木下様

東芝グループの一員として、昇降機事業を通じて社会インフラを支え続ける東芝エレベータ株式会社様。同社の営業現場では長年、エース社員の経験やノウハウが「暗黙知」となっているという課題を抱えていました。その解決策として選ばれたのが、生成AIを活用した営業支援の仕組みづくりです。

「現場で本当に使える仕組み」を追求したプロジェクトはいかにして進み、どのような成果をもたらしたのでしょうか。営業統括部(以下、営統部門)の竹内様と情報戦略システム部(以下、IT部門)の木下様に、プロジェクトを伴走したアップグレードの山田と大嶋が、当時の様子から今後の展望までを伺いました。

営業ナレッジの横展開を目指し始動

山田:本日はお時間をいただきありがとうございます。改めて、今回のAI活用プロジェクトが始まった経緯についてお伺いできますか。

竹内氏:はい。弊社は、昇降機に関わる製品・システムの開発から設計・製造・販売・据付・調整・メンテナンス・リニューアルまでの一貫した体制を構築しておりますが、その中で今回は生成AIを活用して保守メンテナンス事業における営業活動を高度化したい、と考えたのがプロジェクトの始まりです。

山田:ありがとうございます。保守営業の現場において、実際にどのような課題感を抱えていらっしゃったのでしょうか。

竹内氏:これまで営統部門では、お客様へより付加価値のある営業提案を行うため、豊富な経験と実績を持つメンバーを集めてミーティングを重ねてきました。各案件の状況をモニタリングして議論を交わし、的確なフォローを行ってきたものの、そこで発揮される「エース社員の経験知・ナレッジ」はどうしても明文化できないものが多くありました。結果として、全国の支社へ横展開できず、ノウハウを活かし切れていないという課題を抱えていました。そこで、生成AIを活用することで彼らのノウハウを形式知化し、属人化を解消して全国どこの支社でも質の高い営業活動ができる仕組みを構築できないかと考えたのが、本プロジェクトの出発点になります。

決め手は、徹底的な実務目線による「現場で使える」仕組みづくり

山田:多くの企業をご検討いただいた中で、最終的に弊社にご依頼いただけた決め手はどこにあったのでしょうか。

竹内氏:複数のベンダー様に参加いただきコンペ形式でPoCを実施したのですが、その中で最も実現の可能性を感じたのが御社でした。「システムをどう現場の業務フローに落とし込み、定着させ、実際のインパクトを出すか」という実務目線でのご提案に魅力を感じました。例えば、私どもが普段から使い慣れているMicrosoft製品(ExcelやOneNoteなど)を連携させ、AIアプリへインプットするデータの整理・作成の部分まで自動化していただくなど、単なるAI導入に留まらないご提案でした。現場での使いやすさや業務全体の効率化まで見据えた姿勢に豊富な支援実績の裏付けを感じ、依頼を決めました。

山田:ありがとうございます。徹底的な現場目線でのご提案・開発というのは我々も常に意識しておりますので、そこをご評価いただけたことは大変嬉しく思います。
ご依頼いただいた決め手について、木下様からもお伺いできますか。

木下氏:やはり、私どもの実態や規模感に寄り添った「身の丈に合った提案」をしていただけた点が非常に良かったです。また、弊社の業務フローをしっかりと整理し、どの業務にどの程度の効果が見込めるのか定量的に試算していただいたことで、ROIが見合うと事前に確信できた点が、導入の大きな決め手になったと思います。

山田:ありがとうございます。生成AI活用のご支援をさせていただくにあたり、精度検証のみに終わり実運用に至らない、いわゆる「PoC死」を防ぐため、定量的にROIを試算して確実に実運用まで導くご提案を弊社では徹底しております。

AIによる業務効率化で生まれた余白を、お客様と向き合う時間へ

山田:実際に実務の中でシステムを活用されているご所感はいかがでしょうか。

竹内氏:非常に大きな成果を感じています。まず、これまで人の手で行うと数時間かかっていた営業情報の整理が実質ゼロになりました。また、そのデータをAIアプリに読み込ませることで、エース社員の視点を取り入れた客観的かつ的確なフィードバックを案件ごとに得られるようになりました。これまでは人的リソースの限界もあり、すべての案件に対して個別にフォローすることは難しかったのですが、このアプリのおかげで、より多くの案件をカバーできるようになっています。

山田:現場の「特定業務」に深く踏み込んだAIだからこそ、大きなインパクトが出せると考えております。

木下氏:私もそのように感じています。これまでCopilotなどの汎用向けの生成AI活用は行ってきましたが、特定業務向けの生成AI活用は弊社では初めての取り組みでした。一連の業務自動化とAI活用によって削減できた時間をより付加価値がある業務に充てられたことは、全社的なDX・AX推進において非常に大きな成功体験となりました。

山田:AIの導入が単なる工数削減に留まらず、御社が本来注力すべき付加価値の高い業務を後押しできているというのは、我々としても非常に嬉しい成果です。実際にシステムを利用されている現場の皆様の反響はいかがですか。

竹内氏:まず、定例で開催していたフォロー会議運営業務の効率化に非常に助けられています。案件別の議事録生成機能については、回数を重ねるごとに精度が高まり、より実用的なものになってきている印象です。案件ごとのアドバイスやフォローコメントに関してはまだ発展途上な部分もありますが、営業の最前線にいるリーダー陣も都度確認し、「こういう見せ方・提案の切り口があるのか」と学びになっているようです。

山田:ありがとうございます。また、今後はさらに展開範囲を広げる方針だと伺いました。

竹内氏:そうですね、今期は本社の営統部門で対応を進めていますが、今後は支店へ展開し、各現場で運用してもらうことを想定しています。データ整理や議事録作成の自動化、AIによる案件別のフィードバックの出力など、今回開発していただいたシステムの効果をさらに多くの社員に実感してもらえると思っています。
今の段階でも現場からは、AIを活用した自社業務専門のシステム導入について驚きの声が多く上がっており、AIを活用したさらなる業務効率化や高度化への期待感が非常に高まっていると感じています。

山田:素晴らしいですね。具体的に現場の皆様からはどういったご要望が挙がっているのでしょうか。

竹内氏:例えば見積り作成の自動化や、工事スケジューリングの最適化など、様々な要望が挙がってきています。これらに対しても、生成AIの活用に向けた具体的な検討をすでに始めています。

「圧倒的な伴走力」。共に課題へ向き合うパートナーとしての安心感

山田:今回、御社のAX推進の第一歩をご支援できたということで、非常に嬉しく思っております。実際に弊社とプロジェクトを進めさせていただいた中で、印象に残った部分があればお伺いできますでしょうか。

竹内氏:依頼した範囲での開発に留まらず、「保守営業の効率化・高度化」というプロジェクトの主目的に沿ったプラスアルファの提案や実装をしていただいたことは非常にありがたかったです。また、システムエラー時の迅速なサポートを含め、単なる開発ベンダーではなく、一緒に課題解決に向き合うパートナーとして非常に安心して任せられました

大嶋:そうですね。今回はPoC期間から御社の本番環境で検証をさせていただいておりました。生成AIを活用したプロジェクトは、特に検証期間においては必ずしも十分な精度が出るとは限らないため、御社の業務に影響を出さないよう、責任を持って常に不測の事態に備えておりました。

竹内氏:その熱量や責任感については、プロジェクトのあらゆる場面で感じました。プログラムやシステムを作ることだけでなく、「東芝エレベータの業務が回ること」を最優先に考えて検証作業を進めていただけたなと感じています。

山田:ありがとうございます。プロジェクト期間中は、毎週の定例会も重ねてまいりましたが、我々とのコミュニケーションや会議の進め方という点ではいかがでしたか?

竹内氏:非エンジニアのメンバーにも技術的な内容を分かりやすく噛み砕いて説明してくださり、とても助かりました。運用面を考えた際に様々な要望をご相談しましたが、次の定例会では必ず具体的な回答や提案を持ってきていただけた点も印象的でした。私どもの課題を「何とか解決しよう」と一緒になって考えてくださる姿勢や、皆様のお人柄に触れ、本当に誠実で素晴らしい会社なのだなと実感しています。

木下氏:毎回、事前に御社としての仮説や答えが用意され、道筋の立てられたアジェンダをご提示いただいたことで、定例会の時間では方向性が合っているかどうかの確認に集中でき、会議が非常にスムーズに進んだのも素晴らしかったです。また、システムの運用・保守に関して疑問点をご相談した際、単に口頭で回答するだけでなく、私どもが今後参照できるようにマニュアルなどの資料を作成して丁寧に対応していただけた点に、伴走力の高さを感じました。

竹内氏:定例会の進め方については他にも印象に残っている場面があります。別のプロジェクトでお打ち合わせをさせていただいた際に、わずか15分で会議が終わったことがありました。「分かりました、では進めてまいります」と即座に方針が決まり、不必要に会議を続けることなくすぐ開発に臨まれていて、良い意味で本当にびっくりしました。

大嶋:私もよく覚えております。ただ、それは御社が事前に要件をしっかりと固めてくださっていたおかげでもあります。我々としても仮説や視点を持った上で会議に臨めましたし、的確なご意見をいただけたことで、「早くオフィスに戻って開発したい!」とエンジニアと盛り上がり、その日のうちに取り掛かっておりました。

山田:この件に限らず、御社の皆様の当事者意識の高さには私どもも大変助けられました。開発にあたり必要なデータをお願いすればすぐにご対応いただき、ご意見をお伺いすれば的確なリアクションをいただける。プロジェクトを丸投げされるのではなく、皆様と一緒に価値を創出できている実感が持てたからこそ、私どもも非常にやりがいを持って進めさせていただくことができました。

直面した「内製化の壁」。研修をきっかけに掴んだ内製化への確かな手応え

山田:プロジェクトを進める上で苦労された点や、当初の想定と異なった点はありましたでしょうか。

木下氏:今回開発していただいたAIアプリの基盤であるDifyはローコードで開発でき非常に使いやすいのですが、現場の社員が主業務の傍らでキャッチアップするには若干時間がかかる部分もあるため、現在は改修点があれば支援をお願いしつつ、少しずつ弊社が運用できる範囲を広げています。段階的に自走を目指すという、現実的なステップを踏めていると感じています。

山田:いまお話にも上がった、将来的なDifyアプリの開発・保守の内製化に向けた第一歩として、今回はDifyのハンズオン研修も実施させていただきました。受講後の皆様の変化などはいかがでしたか。

木下氏:高度な開発はこれから学ぶ必要がありますが、「開発・保守の自走に向けた第一歩」として非常に有意義な研修でした。LLMの仕組みなど生成AIの基本的な知識を学ぶことができたうえ、ハンズオンで実際に手を動かしたことで、「作ってもらったものを使うだけ」の状態から抜け出せました。

大嶋:全社から収集された生成AI活用要望についてIT部門の皆様とご議論させていただいた際、「簡単なチャットボットの作成なら自分たちでできそうだ」とお話されている場面を拝見し、まさに研修がお役に立っているのだなと非常に嬉しく感じました。

木下氏:はい、直近では、IT部門への問い合わせに対応するAIチャットボットを弊社で作ろうという動きが始まっています。研修に参加した若手社員の中からは、AIを活用する業務に携わりたいと強い意欲を持っているメンバーも複数名出てきていますね。

大嶋:先日IT部門の方とお話をさせていただいた際、Copilot Studioについても大変ご関心を持たれていました。Difyに限らず、様々な生成AIツールやプラットフォームをどんどん活用していこうという社内の期待感や機運の醸成が、まさに加速している段階なのだと強く感じました。

木下氏:ありがとうございます。弊社としては、生成AIの活用を推進するにあたって、「きっかけ作り」が非常に重要になってくると思っています。今回の営統部門でのプロジェクトやDify研修がその大きなきっかけとなり、内製化への取り組みが着実に進みつつあると感じています。今後は今回の成功をモデルケースとし、全社へ広げていくことが私のミッションです。

成功をモデルケースに全社展開へ。現場の声を起点にさらに加速していく全社AX

山田:今後に向けたお話が出てまいりましたが、全社的なAXをどのように展開していくご予定ですか。

木下氏:今回の営統部門での成功をモデルケースとして、すでに他部門でも御社の力をお借りしながらAI技術を活用したPoCを複数走らせています。明確な成果も見え始めており、今後全社的なAXがさらに加速していくと期待しています。 また、昨年に続き今年も生成AI・デジタル活用の要望を全社から収集する取り組みを実施しようと考えています。「多くの人が共通して抱えている重要度の高い課題」を可視化し、優先順位をつけて手を入れていきたいと考えています。

山田:素晴らしいお取り組みですね。弊社としても、AX伴走支援のプロフェッショナルとして、引き続きお力添えできればと思います。
最後になりますが、生成AIの活用を検討しつつも一歩を踏み出せずにいる企業の皆さんへメッセージをお願いできますか。

竹内氏:生成AI単体で導入しても、「結局どれくらい業務が楽になるのか」という費用対効果が見えづらく、躊躇してしまう方も多いかと思います。しかし今回のプロジェクトでは、Power Automateを用いた業務の自動化とセットでAIを組み込むことで、明確な効果を見通してから進めることができました。単なるAIツールの導入だけではなく、業務プロセスの自動化と組み合わせてAIを活用する仕組みを作るというのも一手だと思います。

木下氏:やはり、まずは小さいことから「やってみる」ことが大切です。小さく導入して「本当に現場が楽になる」という効果を実感し、その成功体験を全社へ広げていくアプローチが良いのではないかと思います。

山田:お二方とも、本日は非常に貴重なお話をいただき、誠にありがとうございました。