ゼロから始めたAI導入。東京ケーブルネットワークが語る、成功の鍵は「伴走型パートナーシップ」と「私たち」で挑む組織作り

東京ケーブルネットワーク
未来創造部 松尾 様
未来創造部 山上 様
地域に根差した情報通信サービスを提供する東京ケーブルネットワーク株式会社様。同社はコロナ禍の2020年に、メタバースやIoTといった先端技術領域での新規事業創出を目指す「未来創造部」を新設しました。その一環として、全社的なAI活用プロジェクトを始動させました。
しかし、社内にはAIの知見が全くなく、何から手をつけるべきか分からない「ゼロ」からのスタートだったといいます。そんな手探りの状況から、いかにしてAIポリシーを策定し、社内にAI活用を推進する「タスクフォース」を設立するに至ったのでしょうか。
本プロジェクトを支援した株式会社アップグレードの市村が、プロジェクトの中心人物である未来創造部の松尾様、山上様にお話を伺いました。そこには、挑戦から生まれた確かな手応えと、未来へのリアルな展望がありました。
「このままでは乗り遅れる」——旗振り役不在から始まったAI活用の模索
市村: 本日はありがとうございます。まず、貴社の事業と、AI活用を推進されている「未来創造部」の役割について改めてお聞かせいただけますか。
山上氏: 弊社は東京都の文京区・荒川区・千代田区を主な事業エリアとし、ケーブルテレビ、インターネット、固定電話サービスを提供しています。未来創造部は、その名の通り立体マップ作成サービスやIoT、メタバース、デジタルサイネージといった領域で新たな事業創出を目指す部署です。その中で、今回は生成AIの活用が大きなテーマでした。単なる業務効率化に留まらず、既存事業とAIを掛け合わせ、新たなビジネス機会を創出できないかと。しかし、社内にはAIの知見が全くなく、旗振り役となる部署も不在でした。そこで我々未来創造部がその役を担い、プロジェクトを立ち上げた次第です。

市村: まさにゼロからのスタートだったのですね。メタバースなど新しい技術に着目される中で、生成AIの重要度はどのようにお考えでしたか?
山上氏: 近年、Difyのようなノーコードのツールも登場し、AIを導入して業務効率化を図ることが当たり前の時代になったと認識しています。業界の展示会などでも新しいAIサービスが次々と発表されており、その波に乗り遅れてはいけないという危機感がありました。私自身も以前所属していた請求入金を取り扱う部署で基幹システムの改修やバックヤードのDX化に携わった経験があり、業務効率化にAIは不可欠だと考えていました。
松尾氏: 個人的な興味関心もありますが、これからの社会の流れとしてAIは「扱わなければ話にならない」技術だと捉えています。何かアクションを起こしたいけれど、何から手をつければいいのか、どうビジネスに繋げればいいのか分からない、という状況でした。
決めては「ゼロ」に寄り添う知見と、孤独な担当者を支える「パートナーシップ」
市村: 多くのAI企業がある中で、弊社にご依頼いただいた理由を改めてお聞かせいただけますか。
山上氏: 本当に手探りの状態で、どこにお願いすれば良いかも分かりませんでした。展示会にも足を運び、多くのAI企業の話を聞きましたが、最終的にアップグレード社に決めたのは、セミナーでのお話を通じて市村さんの知見が非常に深いと感じたからです。他の企業は開発など専門分野に強みを持つところが多かったのですが、我々のような「ゼロから始めたい」という段階では、社内体制の構築から相談できるパートナーが必要でした。その点で、我々の状況に寄り添ったご提案をいただけたのが非常に大きかったです。何より、市村さんは一番身近に感じられる存在で、高すぎるハードルを設定せず、我々の目線に合わせてくださったのが非常にありがたかったです。
松尾氏: 私が御社と組みたいと思ったのは、ご縁はもちろんですが、「パートナーシップ」を築けると感じたからです。我々のようなケーブル業界の会社は、社員数が少なくリソースが限られています。AIのような新しい取り組みの担当者は1人か2人になりがちで、孤独を感じやすい。社内で仲間を増やす努力はしますが、最初の段階では精神的な支えとなる社外パートナーの存在が非常に重要です。山上にとっても、市村さんの存在は大きな支えになったはずです。ビジネスライクな付き合いだけでなく、そうした人間的なパートナーシップを築けそうだと感じたのが決め手です。
市村: 嬉しいお言葉です。支援前の具体的な課題についても、もう少し生々しいお話を伺えますか。
山上氏: はい、課題は山積みでした。1つ目は、情報検索の非効率性です。アナログな部分が多く、Excelへのデータ入力・更新といったバックヤード業務に多くの工数がかかっています。必要な資料を探すために関係部署のファイルサーバーを横断的に検索するのにも時間がかかり、特に営業事務や経理部門ではこの状況から脱却できていませんでした。
松尾氏: 2つ目は、社員がクリエイティブな業務に注力できないことです。本来、クリエイティブな仕事がしたくて入社してきた社員も、ルーティン業務の多さにモチベーションを下げ、離職してしまうケースがありました。ポテンシャルがあるのにもったいない。私はAIが一般化する前からずっと「機械にできることは機械に任せるべき」と言い続けてきました。以前カスタマーサポートセンターにいた頃、自分でマクロを組んで月次や週次の定型作業を自動化していた経験もあり、人がやらなくてもいい作業をAIに任せ、人はより創造的な仕事に集中できる環境を作れていないのが、大きな課題でした。

「まず、やってみる」——内製化への挑戦が生んだ「判断基準」という大きな成果
市村: 支援期間中、AIポリシーの策定からDifyでのプロトタイプ作成まで多岐にわたるご支援をしましたが、特にどのような効果を感じていますか?
山上氏: 大きな成果は2つあります。1つは、AIポリシーを策定できたことです。管理部門のリソースが限られている中で、ゼロから自分たちだけで進めていたら、ここまで早くは進まなかったでしょう。市村さんに雛形を作成していただき、それを基に議論を深められたことが非常に大きかったです。
もう1つは、Difyのようなノーコードツールに関する知見が得られたことです。ご紹介いただくまで、このような内製化ツールがあること自体知りませんでした。実際に自分で触り、相談しながら進める中で、「どこまでが内製できて、どこからが専門家の助けが必要か」という判断基準が明確になりました。私自身は非エンジニアですが、AWSにDifyをデプロイするところまで挑戦し、その壁を知ることができた。この「できること」と「できないこと」の線引きが分かったことは、今後の事業構築において非常に重要な経験でした。
市村: 山上さんがAWSにDifyをデプロイし始めた時は本当に驚きました。かなり勉強されたのですね。
松尾氏: 最初、私が「AWSで自分でできないの?」と話した時、彼は「この人は何を言っているんだ」と思ったはずです(笑)。でも、「とにかく一回やってみて」と。エンジニアでなくても、「ここまでなら自分たちでできる」というラインや、「これ以上は専門家の領域だ」という勘所を掴むことが重要です。今後、会社から「コストがかかるなら内製できないのか」と必ず言われます。その時に、「やってみた結果、ここが限界でした」と具体的に説明できるかどうかが大きな違いです。
市村:全くやらずに外注するのと、限界を理解した上で外注するのとでは、全く意味が違いますね。
松尾氏:何も知らない相手だと思って話していると、「AWSでデプロイした」と言われた瞬間に、相手の見る目が変わりますからね。
主語が「私」から「私たち」へ。タスクフォースが拓く、自律的なAI活用の未来
市村: ポリシーが完成し、タスクフォースも発足したのですね。そのミッションや構成について教えてください。
山上氏: はい。AIを社内に浸透させるためには、トップダウンだけでなく、各部署に「仲間」を増やしていく必要があると考え、各部署から1〜2名ずつメンバーを集めました。知識ゼロのメンバーもいるので、「AIとは何か」というレベルから勉強会を開き、彼らが核となって各部署に知見を広めていく体制を目指しています。AIに懐疑的な社員の心理的ハードルを下げるのも彼らの重要な役割です。最終的なゴールは、社員一人ひとりが課題解決の手段として、当たり前にAIを選択できる状態にすることです。
松尾氏: このタスクフォースには、グループ会社のメンバーも参加しています。普段あまり交流のない部署や会社の人たちが集まることで、部署固有の悩みだけでなく、組織横断的な共通課題が見えてきます。「みんな同じようなことで悩んでいるんだ」と共有できるだけでも大きな価値があります。人が少ない組織では、担当者が一人で悩みを抱え込みがちです。しかし、この場があることで、主語が「私」から「私たち」に変わります。「私たちの課題を解決するためにAIをどう使うか」という視点で議論できる。これが非常に重要です。
市村: 「主語が私たちになる」、素晴らしいですね。社内でAIに積極的な方が増えたという実感はありますか?
山上氏: はい、実感しています。技術系の部署ではアップグレード様との打合せに同席してもらうなど協力的な体制を築けています。また、私がメディア関連の部署のメンバーにAIの基礎的なレクチャーをしたところ、使い方を知らなかっただけで、具体例を示したらすぐに使い始めてくれました。支援開始時の社内アンケートでは半数がAIに無関心でしたが、関心を持ってくれた層の期待に応えることで、無関心だった層も巻き込んでいきたいですね。

まずは社内ナレッジ共有から。その先に見据える「業界の課題解決」
市村: 最後に、今後の展開についてお聞かせください。
山上氏: まずは、タスクフォースで社内ナレッジ共有のチャットボットをDifyで内製することから着手します。年末調整の申請方法など、細かい社内ルールに関する問い合わせは非常に多いので、これを成功させて社内でのユースケースを少しずつ作っていきたいです。
将来的には、「幹線監視」業務の効率化という大きなテーマにも挑戦したいです。担当部署からは「5〜6人分の省力化効果が見込める」という声も上がっており、先日開催された「ケーブル技術ショー」でも、この分野に特化したソリューションは見当たりませんでした。同じ悩みを抱える同業他社は多いはずなので、これを実現できれば業界全体の助けにもなると考えています。
市村: 素晴らしい展望ですね。「幹線監視」のテーマは、貴社一社の効率化に留まらず、業界全体の課題解決に繋がる大きな可能性を秘めていると感じます。当社としてはクライアント様の社内の効率化・高度化のみならず、パートナーとして、業界全体の課題解決まで支援していきたいと考えています。