“データと共に育てるAI”で会計教育を変える―― CPAが描く、AIチューター構想

CPAエクセレントパートナーズ株式会社
経営企画室 AIチームリーダー 曽我 様
公認会計士をはじめとする会計系資格のスクール事業や人材紹介エージェント事業を展開するCPAエクセレントパートナーズ株式会社様。受講生からの質問対応における「タイムラグ」や「学習支援の質の向上」が課題となる中、同社は約2年前から生成AIの活用に着目。Difyを開発基盤としたAIチャットボットのPoCに踏み出しました。「AIは永遠のベータ版。データと共に育てていくもの」という先進的な思想のもと、公認会計士試験の中でも特に計算量・学習量が多い重要科目(財務会計論)の質問自動応答チャットボットを構築したプロジェクトの背景と、その先に描く「AIチューター」構想について、推進役の曽我様にプロジェクトを担当したアップグレードの増田・田井野が伺いました。
技術進化の波を捉え、2年前にAI活用を決断
増田:本日はよろしくお願いいたします。まずは、今回の生成AI活用プロジェクトが始まった背景についてお聞かせください。
曽我氏:教育業界はもとより、弊社のエージェント事業やEラーニング事業においても、生成AIを始めとする技術進化の影響は激しく、早急に社内外でも生成AIによるプロダクト開発・業務効率化に向けた利活用を進めていく方針を2年ほど前に打ち出していました。AIや自動化、最適化といったプロアクティブなものは、そうした弊社の事業と親和性が高いじゃないですか。代表が「我々もしっかりやらないといけない」と号令をかけたのが最初のきっかけですね。
田井野:なるほど、そうだったのですね。2年前のスタートから始まり、今回のDifyを開発基盤とするプロジェクトにはどのような経緯で行き着いたのでしょうか。
曽我氏:AIの重要性は高い一方で、そこまで技術に長けた人材が当たり前にいる環境ではありません。なるべく身近で、安くて、直感的に触れるものを探していた時に、ちょうどDifyのようなプラットフォームが出てきていました。一番の決め手は取っつきやすさでしたね。GUIなので抵抗なく触ることができ、既に社内でも試験的に運用を進めていた点が大きかったです。
社内PoCから外部パートナーとの連携へ。「品質」と「スピード」を求めた戦略的判断
増田:社内で既にAI活用のPoCを進めていらっしゃった中で、今回あえて外部パートナーとの連携を模索された背景にはどのような課題があったのでしょうか。
曽我氏:一言に「AI活用」と言っても、その利活用シーンや規模感によって社内でのPoCで済むのか、あるいはベンダー様を巻き込みスケールすることを想定した動きをとるべきなのかは分けて考える必要がありました。Difyは誰でも触れる入り口の広さがある一方で、全体像が見えにくい部分もあります。我々だけでパッと作れたとしても、もっといいやり方があるのではないか、我々の知らない知見があるのではないかと。本格的にアプリとして開発し、スケーリングするとなった時に、ちゃんと知見をお持ちの方々、かつDifyの認定を受けている公式パートナーの企業様にご協力いただく方が、より確信を持って進められると判断しました。
「やりたいことに見合う」パートナーを見極める

増田:パートナー選定を進める中で、特に苦労された点はありましたか。
曽我氏:選定における苦労は特にありませんでしたが、強いて言えば生成AIが時流のブームであったことも含めて非常に多くのサービスや開発が選択肢にあがりがちな点でしょうか。当時は「すごいものが出てきたから、価値が高いから」と、適正はさておき高額な見積もりを出す企業様も多かった印象です。やれることとやりたいこと、期待価値と本質価値の間に乖離があるケースも少なくなく、高いか安いかではなく、やりたいことに見合う考え方を持ってくださるところを見極めるのが重要でした。
田井野:そうだったんですね、ありがとうございます。その中で、最終的に弊社をお選びいただいた決め手は何だったのでしょうか。
曽我氏:何を使ってどうやるかが明確に見えていたことが大きかったですね。複数の企業様とお話しする中で、具体的に何をや るのかが見えづらいケースも多かった中、アップグレード社は、Difyを活用したブラックボックス化しない開発を提案してくださり、将来的にはCPA自身でも保守・運用を自走できるという点が安心材料になりました。ベンダーロックインをせず、顧客の最終的な自走まで考えてくれる誠実な姿勢と、Difyに対する深い知見が決め手になりました。また、担当いただいた方の誠実さやお人柄も、信頼してお任せできると感じた大きな要因でしたね。
「完成版」ではなく「育つ仕組み」を。フィードバック学習への期待

増田:今回、財務会計論という専門性の高い領域でチャットボットを構築しましたが、回答精度や機能面で特にこだわったポイントをお聞かせください。
曽我氏:回答精度を自主的に高めていくことができるプラグイン機能を実装した点です。おそらく多くの方が、AIは「データと共に育てていく」ということが重要な点であると認識されていると思います。それをシンプルに、わかりやすく開発・実装した点がポイントです。
今多くの会社様がやっているのは、完成物を納品するというスタイルですが、AIって基本的に完成しないじゃないですか。人の脳と同じで、人工知能だけに永遠のベータ版。状況に応じて育っていくものだと考えると、完成版が欲しいのではなく、変化を前提とした仕組みこそが重要です。プラグインによってチューニングや学習ができ、人間の嗜好性や判断基準を取り込むことで、より実際の講師やチューターに近い回答を作れるようになる。それが実現するならば素晴らしいと、当時から期待していました。
メール応答の先へ。「AIチューター」が支える学びの未来
増田:今回のPoCを経て、将来的にはどのようなAI活用・DXのビジョンを描いていらっしゃいますか。
曽我氏:一つは、自社ならではの一次データの活用による事業強化です。CPAには、日々多くの受講生から届く質問と、それに対する講師陣の回答という、高品質な一次データが大量に存在します。教育という領域においては、AI活用の先に「AIでは代替できない、人間の講師だからこそ提供できる本質的な教育的価値」が存在すると考えております。AI活用を通じて一次データを高速で蓄積していくことで、その本質的価値・素養を紡ぎだし、ナレッジとして結晶化することが重要です。こうした取り組みを通じて、他社との差別化にも自動的につながるような、自社事業の強みの増幅を実現したいです。
加えて、AI活用を前提に業務プロセス自体を見直す「AI-Readyな業務抜本改革」も同時に実践することで、圧倒的な効率化を実現していきたいと考えています。
また、今はメールでの質問自動応答というところで留まっていますが、究極的にはその場で聞いてその場で返ってくる、AIチューターとしてオンタイムで質問にも相談にも答えてくれるのが目指す姿です。勉強の中身に答えるだけでなく、戦略に寄り添ってくれる学習サポートや目標設定、論文型試験の書き方指導まで、トータルで学習を支援するものを早急に作りたい。そしてさらに言えば、会計資格はキャリアにつながるもの。学びのログとキャリアのデータが蓄積されれば、最適なタイミングで思考を深められるようなサジェストをするAIが実現できる。学ぶと働くを切り離さない、生涯支援のプラットフォームを目指しています。
やってみないことには始まらない。まずは一歩、踏み出す勇気を
増田:最後に、AI導入の第一歩を踏み出せずにいる企業のご担当者様へ、メッセージをお願いします。
曽我氏:無料でも少額でも試せることはたくさんあります。「知識を入れてから」ではなく「やってみてからの気づき」の方が重要な価値になりますので、最低限の留意点は守りつつ、まずは手をつけてみてはいかがでしょうか。技術進化の速度は全世界の過去の歴史で最も早く、これからさらに加速すると思っています。旧来のトラディショナルな検討をしているうちに先に行かれてしまう。許される範囲でまずやってみて、気づいたことを言語化してみる。無料のChatGPTでビジネスアイデアを壁打ちするだけでも違います。やってみないことには始まりませんし、もう元には戻れない時代です。まずは一歩、踏み出してみてください。
増田:曽我様、本日は貴重なお話をありがとうございました。「AIは永遠のベータ版」という言葉が大変印象的でした。我々も引き続き、CPA様のAIチューター構想の実現に向けて、しっかりサポートさせていただきます。